改めて。食べるについて。

食べるって大事。

凛としている彼女について。(新聞記者 キムスンミ)

そのタイ料理屋さんはビルの3階にあった。

灰色の3階にぽつんと見える扉がそのお店の入り口なんだと認識するのに私は踊り場でぐるんぐるんと2、3回転したのではないかと思う。

扉を開けとんでもなく無愛想な店員さんに、待ち合わせだと伝える。

彼は今年1番の冷たさで私をあしらった人であった。

待ち合わせの相手なんて居ませんとこう言ったのだ。

そんな訳はないので、勝手に進んでみる。

と別の本場な店員さんに

「マチアワセカ??」

と聞かれた。

はいと返事をすると。

「アソコノマドキワダ」

と言われた。

そこは窓際ではなくて壁際だった。

すたすた進んで顔を覗きこむとスンミがパァっと明るく笑う。

そして、みゆきさんお久しぶりと笑いかけてくれた。

 

スンミは新聞記者をしている。

年に数回平壌へ渡り、現地を取材している。

今年は韓国へも行ったと言っており、私の知らないたくさんの話を会う度に自分の言葉で話してくれる。

いつもいつも、私の常識を柔らかな言葉でコツンコツンと刺激して割ってくれる人だ。

 

「小さな時から、恵まれていたからだと思う。

 それは、金銭的な贅沢とかそういう事でなくてね。当たり前に美味しいものを食べて育ったから。

 食事って事に対してそこまでの執着がなくって。 」

 

彼女は、質問をする相手に私は向いてないのかもしれないと付け加えてこう話してくれた。

 

「だからね、私には食事ってそこまで大切なものではないのかもしれない。

 甘いものなんて、ほとんど食べないし、朝も食べないよ。」

 

好きな食べ物は?と聞くと。

「お酒。」

と言われた。

 

「両親の影響かな?凄くお酒が強いの。笑

 それで私も、大人ってこういうものなんだって。」

 

彼女のオモニ(お母さん)は料理上手で何十種類とスープのレパートリーを持っているという。

 

「お昼はね、前日のオモニの作ったのお弁当にして持っていったりする。だけど、1.2食食べるものが無ければ飛ばしても全然平気!」

 

彼女には夢がある。

その夢を1つずつ丁寧描き、

それに向かって毎日を過ごしている。

仕事をして、夢を描いて。

会話をして、活力を生んで。

 

彼女には沢山の気遣いが溢れている。

「例えば、キン。。海苔巻とかね。」

彼女はキンパと言う家庭料理の名前を

私にわかりやすく説明する為に、

あえて私に馴染みのある

海苔巻と言う言葉に変換してくれた。

ステキ過ぎて惚れてしまうかと思った。

 

その彼女を育てたのは他でもないオモニのご飯。

食べ物についての話はそのまま家族の話だった。

いってきます。とただいま。の場所がなんとなく彼女の話から見えるような気がした。

 

ちょっと昔のある人の発言。

それは、なかなか痛烈で

そのつもりもなく場を凍らせた言葉だった。

そこに、スンミも私も居合わせていた。

そんな古くもない思い出話の感想に、

私は今の自分に誇りを持っている。

と彼女が言ったのだった。

 

私はこの人がとても好きだなぁ。と思った。

 

私が甘いものが好きだと言う話題。

私がお酒を好きなのと一緒かもしれないと言われて、私はピコンとなった。

 

「味も好きだけどだれかと飲むと楽しい。」

私はお酒が弱いけれど。

家族で必ず食後にデザートを食べていた事を思い出した。

その時のワクワク感や取り留めもない会話。

 

ラストオーダーと

今年1番の冷たさで私をあしらった彼がやって来た。

 

スンミはにこっと笑って

「甘いもの、一緒に食べよう」

と言った。

 

ぱちんぱちんと手を合わせてまたね。と別れた。

明日が楽しみだなぁと思いながら。

沢山の知らなかった事実を思い返しながら。